人に育てられ
人を育てる人へ
株式会社KAKEGOE 代表取締役
水口 大地DAICHI MIZUGUCHI
1992年京都市生まれ。東山高校卒。高校3年生の時、串揚げ店でのアルバイトをきっかけに飲食業の魅力に出会い、大学進学を辞退。そのまま飲食業界へ。店長、マネージャーを経て24歳で独立。20席のカウンターのみの串揚げ専門店「あいよっ!」をオープン。2018年に株式会社KAKEGOEを設立。現在は京都市内でグループ全体で18店舗(2026年6月末現在)を展開するほか、就労継続支援A型事業所「株式会社さぽーと」を運営するなど、飲食と福祉を組み合わせた事業にも取り組んでいる。2026年には、さらなる出店拡大や将来の株式上場を見据え、株式会社日本投資ファンドと一部資本提携を締結。京都を拠点に人が成長できる環境づくりと、新たな挑戦を続けている。
INTRODUCTION
京都を拠点に飲食事業を展開する株式会社KAKEGOE代表、水口大地さん。高校時代のアルバイトとの出会いをきっかけに飲食の道へ進んだ水口さんに、これまでの歩みを伺った。東山を卒業してから、「お前も東山か。」この一言で、初対面の人との距離が縮まる場面が何度もあったという。経営の話を伺う中で、何度も話題に上ったのは、恩師や仲間、家族の存在だった。水口さんの人生を変えてきたのは、大きな成功でも劇的な出来事でもない。その節目には、いつも誰かとの出会いがあった。
人生を動かした、最初の出会い
人生は、誰との出会いから動き始めるのだろう
人生を振り返ったとき、「あの人との出会いが始まりだった」と思える人はいるだろうか?水口さんにとってその一人は、中学3年生の時の先生だった。高校の進路を考えていた当時、信頼していた先生から勧められたのが東山高校である。そのときは、一つの進学先を選んだというくらいの感覚だったかもしれない。けれど振り返れば、その一歩が、思いもよらない出会いの始まりになっていた。人生は、大きな決断だけで動くものではない。信頼する誰かの、何気ない一言から始まることもある。
東山で受け取ったもの
人は、何を学んだかより、誰から学んだかを覚えている
東山高校での3年間について、水口さんは「高校時代の思い出は、それほど多くないんです」と振り返る。それでも、今も心に残っている光景がある。毎朝、校門に立ち、生徒一人ひとりに声をかけていた当時の校長、奥田歓信先生の姿だ。毎日交わされる挨拶。当時は、その意味を深く考えたことはなかった。けれど、起業した今、水口さんは会社でも「挨拶」を何より大切にしている。人と向き合うこと。相手を認めること。その原点は、東山で過ごした何気ない日常の中にあったのかもしれない。水口さんは、東山高校を「親身になってくれる学校だった」と振り返る。教室で学んだ知識だけではない。人と向き合う姿勢こそが、今の自分を支えている。
仕事に恋をした瞬間
「働く」は、誰と出会うかで変わっていく
高校3年生のとき、水口さんは地元の串揚げ店の求人チラシをきっかけに、アルバイトを始めた。店は20席ほどの小さな店。飲食店で働くのは初めてだった。接客をする。料理を運ぶ。仲間と一緒に店をつくる。目の前のお客様に「ありがとう」と言ってもらえる。その一つひとつが新鮮だった。「こんなにもやりがいのある仕事があるのか!」それまで抱いていた「働く」というイメージが、大きく変わった瞬間だった。大学への進学もすでに決まっていた。けれど、水口さんの心は少しずつ大学ではなく、お店へ向かい始めていた。
人生を変えた問い
人生を変えるのは、答えではなく問いなのかもしれない
父子家庭で育った水口さんにとって、大学へ進学することは親孝行の一つだと思っていた。しかし、アルバイト先の社長からある日、こんな問いを投げかけられる。「4年間で400万円の学費を払って学歴を得るか。4年間働いて400万円を貯め、知識と経験を得るか。どちらに価値があると思う?」その問いに、水口さんは考え続けた。そして、自分にとって意味があると思えたのは後者だった。大学進学を辞退し、仕事の道を選ぶ。それは、誰かに決めてもらった人生ではなく、自分自身で選んだ最初の一歩だった。
人生は、有限だった
人は、大切な人との別れによって、生き方を見つめ直す。
仕事の楽しさを教えてくれた社長は、水口さんにとって人生の恩師でもあった。しかし、その社長は、突然この世を去る。あまりにも急な別れだった。水口さんの胸に残ったのは、悲しみだけではない。「人生の時間は有限である。」その現実だった。もし自分が同じように突然いなくなったら、社員や家族に何を残せるだろうか——そう自問するようになった。
仕事だけに人生を捧げるのではなく、家族との時間も、健康も、自分自身の幸せも大切にする。その考え方は、この経験から生まれた。今、水口さんが語る「社員も、会社も、経営者も幸せになる経営」という理念の原点は、ここにあるのかもしれない。
独立を決めた日
挑戦は、自分を信じることから始まる
あの日感じた「人生の時間は有限である」という思いは、水口さんの決意を後押しした。挑戦するなら今しかない。24歳。自己資金をもとに、20席だけのカウンターが並ぶ串揚げ専門店「あいよっ!」をオープンした。決して大きな店ではない。けれど、その場所には、自分が信じる接客があり、自分が理想とする店づくりがあった。この思いを一つの店だけで終わらせたくはなかった。より多くの仲間と挑戦を続けるため、2年後、株式会社KAKEGOEを設立する。
自分と関わるすべての人が、前向きな気持ちになれる存在でありたい。どんな困難でも乗り越えていける「前向きな挑戦者」であり続けたい。それが水口さんが会社に込めた想いだった。「ありがとう」があふれ、人が前向きに挑戦できる会社をつくる。この想いこそが、KAKEGOEという会社の原点になった。
人を増やすために店を増やす
人は、任されることで成長していく
仕事の楽しさを教えてくれた社長との出会いは、水口さんの経営にも大きな影響を与えている。会社が成長するにつれて、店舗も少しずつ増えていった。けれど、水口さんにとって、出店はゴールではない。新しい店ができれば、新しい店長が生まれる。店長が育てば、次はマネージャーという役割が生まれる。
現在、グループ全体では18店舗を展開している(2026年6月末現在)。それは、18人の店長が挑戦できる場所があるということでもある。店舗が増えるたびに、新しい役割が生まれ、働く人の未来の選択肢も広がっていく。水口さんは、年間6店舗の出店を目標に掲げている。しかし、その数字の先に見ているのは店舗数ではない。毎年、新たな挑戦の舞台を6つ生み出すこと。挑戦する人を、毎年6店舗分増やしていくこと。
だから、水口さんは言う。「人を増やすために店を増やす。」会社を大きくしたいのではない。人が成長し続けられる環境をつくりたい。その積み重ねが、また新しい店を生み、新しい挑戦を生み、さらに人を育てていく。会社は利益を追い求める場所だけではなく、人が成長する舞台でもある。水口さんが目指しているのは、人が育ち続ける会社をつくることだ。
出会いは、人をつないでいく
誰かを信じることから、新しい未来は始まる
ある日、一人の応募者がやってきた。耳が不自由だった。働きたいという思いを受け止め、採用してみると、仕事にほとんど支障はなかった。筆談を交わせば十分だった。すると、社員の一人が打ち明けた。「実は、私の家族にも障がいがあります。」それまで言えなかったことが、少しずつ語られるようになった。「知り合いにも働きたい人がいる。」そんな声も集まり始める。
集まり始めた声を受け、水口さんは奥さまに相談した。「私たちで、何かできないだろうか。」そこから生まれたのが、そこから生まれたのが、飲食店のセントラルキッチン機能を担う就労継続支援A型事業所「株式会社さぽーと」だった。障がいのある方が、店舗で提供する商品の仕込みや調理を担い、実際の飲食の現場を支える仕事に携わっている。誰か一人との出会いが、新しい事業を生んだ。その場所では今も、一人ひとりが自分らしく働き、社会との新しいつながりを育んでいる。
かつて、水口さん自身が、多くの人との出会いによって人生を動かされたように、今度は、水口さん自身が、誰かの人生をそっと後押しする存在になっている。
Message
東山高校の皆さんへ
AIが進化していく時代だからこそ、人にしかできない仕事の価値は、これからますます大きくなると思っています。私が携わる飲食業は、料理を提供するだけではありません。お客様の表情を見て、声をかける。「ありがとう」と言葉を交わす。そんな人と人とのコミュニケーションが、この仕事の一番の魅力です。だからこそ私は、若い皆さんにも飲食業界の魅力をぜひ知ってほしいと思っています。技術は時代とともに変わっていきます。けれど、人の温かさや人と向き合う仕事の価値は、これからも変わらないと信じています。
▼ あいよっ!二条駅店
営業時間:15:30~0:00 (サンキューハッピーアワー平日 15:30〜18:00)
定休日:無し(年末年始など、稀に店休日がございます)
所在地:〒604-8801 京都市中京区今新在家西町3番地 1階
電話番号:075-496-5133
喫煙可否:禁煙
編集後記
取材を終えて、一つ印象に残ったことがあります。水口さんは、自分の成功だけを語る人ではありませんでした。話題に上ったのは、いつも「誰か」のこと。東山を勧めてくれた中学校の先生。毎朝、校門で声をかけてくれた東山の先生方。人生を変えたアルバイト先の社長。ともに歩んできた仲間。支えてくれた奥さま。けれど、取材が進むにつれて、水口さんは受け取るだけの人ではないことにも気づかされました。人との出会いから受け取ったものは、独立という決断になり、仲間が挑戦できる会社づくりになり、さらに就労支援という新しい挑戦へとつながっていました。人から受け取ったものを、自分の中だけに留めるのではなく、今度は誰かが挑戦できる場所や仕組みへと変えていく。その歩みを見て、私は「人は、人によって育つ」という、とてもシンプルなことを改めて教えてもらった気がします。そのバトンは、これからも誰かの新しい挑戦へと受け継がれていくのでしょう。