地域と人をつなぐ
新しい金融のかたち
京都信用金庫 ソーシャルグッド推進部 部長
石井 規雄NORIO ISHII
1979年大阪府寝屋川市生まれ。東山高校を卒業後、甲南大学へ進学。2004年京都信用金庫に入庫。営業店勤務を経て本部での業務を担い、2019年からの2年間、環境省へ出向。ESG地域金融実践ガイドの策定やESGファイナンスアワードの運営に携わる。2021年よりソーシャル企業認証機構に出向し、京都信用金庫をはじめ京都北都信用金庫、湖東信用金庫、龍谷大学との協業を通じて「S認証(ソーシャル認証)」制度の立ち上げと運営を主導。社会課題の解決やESG経営を志向する企業への評価・認証の仕組みづくりに取り組む。2024年4月より京都信用金庫ソーシャル・グッド推進部部長として、地域金融機関の立場から持続可能な社会づくりに尽力している。インパクト志向金融宣言運営委員も務める。
INTRODUCTION
地域に根ざした金融機関として、京都信用金庫が掲げる使命は「地域の人・事業・社会がつながり、豊かになるために、金融を通じて“絆づくり”と地域、企業、個人の課題の解決を進めること」。その中で、時代の変化に合わせて新たな社会的価値を生み出す部署として設立されたのが「ソーシャル・グッド推進部」です。今回は、その部門を率いる石井規雄さんに、京都信用金庫が取り組む“社会を良くする金融”についてお話を伺いました。
「課題を解決する」ことが一丁目一番地
現在のお仕事内容を教えてください。
私はソーシャル・グッド推進部に所属し、京都信用金庫の本部で働いています。日々、地域の内外にいるさまざまな方々と連携しながら、社会課題の解決につながる取り組みを推進しています。地域をより良くしていくために、一般的な金融業務にとどまらず、地域の魅力を引き出し、人と人とのつながりを生み出す“紐帯”としての役割を果たせるよう、業務に取り組んでいます。
(京都信用金庫)ソーシャルグッド推進部とは?
『ソーシャル・グッド推進部』は、2024年4月に新設された部署です。名前のとおり、「社会に良いこと」を推進することを役割とし、京信が掲げる使命をより確かなものにするために設立されました。信用金庫の原点には、地域で助け合う“相互扶助”の精神があります。これまでも金融という仕組みを通じて、企業の経営や個人の生活を支えてきました。
しかし、いま社会全体では、社会課題の解決やサステナビリティへの取り組みがこれまで以上に重要視される時代に入っています。こうした社会の変化に応え、地域から選ばれ続ける金融機関であるために、私たちは金融機関としての強みを最大限に活かしながら、社会に良い変化をもたらす取り組みを推進していきます。
2つの柱 ― 「S認証」と「ソーシャルグッド預金」
具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?
私たちは、主に二つの取り組みを柱として進めています。ひとつは「ソーシャル企業認証制度(S認証)」、もうひとつは「京信ソーシャル・グッド預金」です。このほかにも、京都市や京都府との連携プロジェクト、脱炭素に関する取り組み、金融商品の企画など、多岐にわたる活動を展開しています。まず「S認証」は、地域企業が取り組む社会課題の解決を“見える化”し、同じ志を持つ企業同士の共創を促すことを目的として、2021年4月にスタートしました。京都信用金庫、京都北都信用金庫、湖東信用金庫、龍谷大学の4者が連携して始まった制度で、現在では但馬信用金庫、玉島信用金庫、枚方信用金庫も加わり、仲間の輪を広げながら展開しています。
もう一つの柱である「京信ソーシャル・グッド預金」は、預金者の「社会を良くしたい」という想いを、社会課題に取り組むS認証企業につなぐことを目的とした商品です。預入時には6つの社会的テーマから関心のある分野を選択でき、関連する企業紹介動画やイベント案内が届きます。預金を通じて“思いとともに託す”仕組みとなっており、S認証企業の活動を知り、応援者として関わるきっかけにもなります。
「S認証」とはどのような制度なのでしょうか?
「S認証」とは、2021年に始まった、社会課題の解決に取り組む企業を可視化し、応援するための制度です。「社会にとって良い企業とは何か」を明らかにし、その企業が地域の人々から選ばれ、応援される社会をつくることを目指しています。そうした企業が増えることで、地域の社会課題が解決へと進むだけでなく、地域経済の活性化にもつながります。
特に、日本企業の99%以上を占める中小企業・小規模事業者の中には、優れた取り組みを行っている企業が数多く存在しています。しかし、その魅力や価値は地域の方々に十分に伝わっていないことも少なくありません。私たち金融機関は、地域にどのような企業や経営者がいるのかを日々見ていますが、その魅力を地域社会へ伝えるには、共通の“軸”や“仕組み”が必要だと考えてきました。
こうした背景から、社会課題の解決や社会的価値を生み出す企業を広く知っていただき、その良さを発信し企業の成長を後押しするため、他の金融機関や大学と協働してこの認証制度を創設しました。認証に関する社会的評価は、龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターが運営する第三者委員会が公正・中立な立場で行っています。S認証は単なる「認証して終わり」の制度ではありません。企業同士の交流を通じた共創の促進、イベントや情報発信を通じた認知向上など、企業の魅力が広がり、新たなつながりが生まれることこそ、この制度の大きな価値だと感じています。
▼ソーシャル企業認証制度(通称:S認証)
https://besocial.jp/
認証はどこが行なっているのですか?
S認証は京信が直接認証しているわけではなく、龍谷大学内の「ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター」と連携し、同センターが評価・認証を行っています。このセンターは、バングラデシュにおけるソーシャルビジネスの先駆者であり、ノーベル平和賞受賞者のムハンマド・ユヌス博士の理念を基に設立された、世界約200ヶ所に広がる研究拠点の一つです。日本には現在、九州大学と龍谷大学の2ヶ所に研究センターが存在し、私たちは龍谷大学のセンターと協働してS認証制度を構築しました。
社会的インパクトの観点から、第三者として企業の取り組みを評価し、公正な立場で認証を行っていただいています。こうした取り組みの結果、S認証を受けた企業は現在1,600社を超えており、地域や社会に貢献する企業の広がりが着実に進んでいます。
▼ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター
https://ysbrc.ryukoku.ac.jp/index.php
もう一つの柱である「京信ソーシャルグッド預金」について教えてください
京信ソーシャル・グッド預金は、地域の企業と市民が互いに支え合い、より良い社会をつくることを目的として生まれた預金制度です。多くの方は、金融機関に預けたお金がどのように使われているかを意識する機会が少ないかもしれません。一方で、「社会に貢献したい」「誰かの力になりたい」と考えていても、具体的な行動に移す方法が分からない、寄付や投資にはリスクや心理的ハードルがある——そんな声も少なくありません。
そこで私たちは、誰もが無理なく参加でき、預けたお金が地域から離れない仕組みとして、この預金をつくりました。お預けいただいた資金はすべて、第三者機関から社会的取り組みが認められた「S認証企業」への融資に使われます。もちろん、これは預金保険機構の保護対象であり、通常の預金と同じ安心感でご利用いただけます。また預金者の皆さまには、S認証企業の取り組み紹介やイベントのお知らせ、経営者から直接話を聞ける機会などをお届けします。これにより「預ける」という日常的な行動そのものが地域や社会の力になっていることを実感していただけます。
預金の新しいかたちですね。
はい、新しい預金のかたちだと思っています。情報提供や交流会、イベントなどを通して預金者の方が社長さんと直接会ったり、企業を訪問したりする機会が増えることで、「地域にこんなに良い会社やお店があったんだ!」と知っていただけます。その気づきが、皆さんの消費行動を少し変えるきっかけになればと考えています。例えば、「これまでは大手スーパーで買い物していたけれど、今度は地域の商店街を訪れてみよう」と思ったり、社会課題を知ることで「自分たちにもできることをしてみよう」という行動につながったり。こうした一つひとつの選択肢が広がっていくことが、地域の未来をより良い方向へと導いていくと感じています。
他にどのような活動(担当業務)をされていますか?
企業の取り組みを紹介する紙面を作成したり、ラジオ番組を企画・放送したり、預金者向けの公式LINEで企業の紹介動画を発信したりと、さまざまな形で情報発信を行っています。こうした発信を通じて、「預けているお金が社会の役に立っている」という実感を持っていただき、自己肯定感を高めながら、一緒により良い社会をつくっていくきっかけになればと考えています。
また、金融庁のインパクトファイナンス関連のディスカッションメンバー、京都市・京都府のサステナブル関連委員、さらには全国の金融機関(メガバンク、ゆうちょ銀行、投資会社など)が参加する委員会の運営委員として、外部の会議体にも幅広く関わっています。こうした場を通じて得られた知見を、地域での取り組みにも還元しています。
キャリアの転機 ―「自分を見つめ直した4年目の出来事」
20年を超えるキャリアの中で、印象に残っている出来事を教えてください。
実は、4年目は私にとって大きく悩み、そして転機となった一年でした。当時は支店勤務で、私はチーム内で最も若手の営業マン。周囲は10年以上のベテランばかりでした。ちょうど成績が振るわない時期でもあり、前向きに仕事へ取り組むというより、成績が上がらない理由や言い訳が目立ち、どこか閉塞感が漂っていたのを覚えています。
私はもともとそうした雰囲気が苦手で、「自分が成果を出せば周りも変わるはずだ。むしろ、この空気を変えられたら会社からも評価されるのではないか」と思い、とにかくがむしゃらに走り続けていました。今思えば空回りも多かったと思いますが、それでも必死でした。そんな中、運も味方して、担当していた業務の状況が良くなり、お客さまも増え、最終的には営業担当者としてとても良い成績を残すことができました。しかし評価はあくまで支店単位だったため、個人としてもチームとしても成果が評価に結びつくことはありませんでした。「こんなに頑張ったのに」という悔しさや不満を口にすることも増え、かえってチームの雰囲気を悪くしてしまっていたのではないかと、今振り返ると感じます。
やがて周囲への不満が募り、「このままここに居てもダメなのでは…」と悩み、転職を真剣に考えるようになりました。そんな折、支店長が私のある失敗を陰でフォローしてくれていた事実を知りました。
その瞬間、「成績は自分一人の力で取ったのではない。周りが支えてくれていたのだ」と気づき、考え方が大きく変わりました。そこからは、“自分がどう評価されるか”ではなく、“お店全体が良くなるためには何が必要か”を意識するように努めてきました。たまに自分の評価を気にしてしまいましたが、、、今振り返ると、この時の気づきこそが、私が地域金融や社会課題へと軸足を移していく原点になっていると強く感じます。
もうひつの転機と言えば、環境省への出向があると思いますが。
環境省への出向は、私の視野を大きく広げてくれた2年間でした。派遣された背景には、環境省が進める多様な取り組みにおいて「地域金融の力が不可欠」という考えがあり、その政策立案・実行を担うチームへ、これまで例のなかった“信用金庫として初めて”参加することになったためです。私が所属したのは、環境経済課・環境金融推進室という部署で、当時12名のチームでした。環境省のプロパー職員はわずか2人。残りは日銀、メガバンク、保険会社、証券会社、地銀、そして信用金庫からの出向者で構成され、金融の最前線で働く多様なメンバーと協働しながら政策立案に携わりました。
そこで強く印象に残ったのが、“言葉への徹底したこだわり”です。わずかな表現の違いで意味が変わるため、言葉の使い方について何日も議論することもありました。「一度外に出た言葉は戻せない」。その姿勢から、私は“言葉の責任”を学ぶことができました。以来、発信する情報は大小に関わらず社会や人に影響を与えると意識し、現在の業務でも「言葉を選び抜く」姿勢を大切にしています。
また、仕事面だけでなく、人とのつながりという面でも大きな財産を得ました。金融庁の方々や他の金融機関の方々と肩書きを超えて関係を築けるようになり、そのつながりから個人的な活動が広がるなど、信用金庫にいるだけでは得られなかった経験が数多く生まれました。
誰かの夢を、みんなで応援する(関西ミライ絵日記アワード)
金融の枠を超えて、個人的な活動も主宰されていますよね?
「誰かの夢を、みんなで応援できる社会をつくりたい」という思いから、自費で立ち上げた取り組みです。“未来の夢”をテーマに、年齢・国籍・立場を問わず誰でも参加できるイベントとして「関西ミライ絵日記アワード」を開催しています。このプロジェクトは昨年はグランフロント大阪で、今年は京都経済センターで開催しました。今年は応募も約100作品にまで増え、イベントとして大きく成長しています。さらに今回は、梅小路エリアの皆さんとも連携し、地域のつながりが広がる取り組みへと進化しました。
一人で広げるには限界がありますが、地域ごとに「おもしろい」と共感し、仲間になってくれる人が増えれば、夢を応援し合う社会はもっと広がるはずだと考えています。京信の方からも「応援するよ」と背中を押していただき、今年はこれまでとは少し違う形で挑戦してみようと思っています。ぜひ、期待していてください!
京都というまち、東山高校という原点
当時は路面電車があったので、蹴上から三条まで乗り、河原町界隈のゲーセンに行ったり四条とかの商店街をぶらぶらしたりしていました。いま振り返るとあの頃は「京都だったんだなぁ」と思う事もあります。現在は観光地化が進み過ぎて“本来の京都らしさ”が薄れていると感じることがあります。京都っぽいものが増えすぎたせいか、どこに向かって行ってるのか?いまいち見えてこない気もしますし、今まで貯めてきた京都のいろんな歴史を削っているようにも思います。だからこそ、これからはもっと地域の良さを見つめ直す動きが大切なんだと思います。
それから東山高校で学んだことにも触れておきますと、高校時代に好きだった科目は「化学」と「数学」でした。成績自体は常に良いという訳ではなく、どちらかと言うとテストに波がある方でした。波があるということは、本質的に理解出来て無いことが多かったんでしょうね。その逆も然りですごく良い点数も取ってしまう...。先生はそういうところや性格を見抜かれていて「そういう時こそ、わかった気になってはいけないよ」とご指導いただきました。先生のこの言葉のお陰で現在に至るまで、わかったふりをしないという”良い”癖がつきました。本当にありがとうございました。
長く京都で働いていますので、すでに東山OBの諸先輩方や後輩の皆さんと繋がっていた(実は高校のこと話題をすることがあまり無くて)かもしれませんが、これを機会に改めて皆さまよろしくお願いします。
編集後記
今回の取材を通して感じたのは、金融の仕事が“お金を扱う”という枠を超えて、人や地域を支える営みになっているということ。石井さんのお話には、数字の裏側にある温かい人の想いが感じられ、聞くほどに「地域を大切にする仕事」の奥深さに引き込まれました。特に印象的だったのは、「言葉の重み/言葉の責任を学んだ」という一言。日々のやり取りの中で、どんな言葉を選ぶか、どんな姿勢で相手に向き合うか――その積み重ねが信頼を生むのだと改めて気づかされました。お金を預ける人、借りる人、そしてそれを支える金融機関。誰かの想いと行動がつながり、地域の未来を少しずつ形づくっていく。京都信用金庫が取り組む「ソーシャルグッド」という言葉の意味が、取材を終える頃には自然と胸に落ちていました。地域に根ざし、人と人をつなぐ金融。その新しい姿を、京都から全国へと発信していく石井さんの挑戦。益々の活躍を期待しています。